4月
24
2007

【本】報道できなかった自衛隊イラク従軍記



報道できなかった自衛隊イラク従軍記

  • 金子 貴一
  • 学研
  • 1890円

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livedoor BOOKS
書評/ルポルタージュ

私はイラクこそ行っていないが、周辺の国であるイランやトルコ、シリア、
ヨルダンへ旅したことがある。もし私に語学力があれば好奇心が旺盛なの
で、たぶん著者と同じ道に進んだかもしれないと思う。今でもこういったア
ジアの国への関心が薄れず、こういった旅行記や従軍記を手にすることが多い。

普通の従軍記は地味な表紙で作られた本である。しかし中味は初めて目にす
ることなので興味深いことが多い。この本はそれとは反対で、自衛隊のイラ
ク派遣というセンセーショナルなできごとをコピーにしたものであるが、内
容は戦後日本が初めて軍隊を戦場に出したという事実に比べ、ありのままを
抑え目に書いた貴重な資料であると思う。

著者は、自衛隊のイラクへ派遣される通訳として選ばれて、最初の51日を自
衛隊と一緒に秘密裏に仕事することになった。2004年2月3日から3月24日ま
での一番最初の大事な時期のアラブ人との関係作りに貢献している。単なる
通訳に留まらず、彼が日本とアラブという双方の文化を理解して、間に挟ま
れながらもその緩衝材として活躍した。そのことが日本が戦死者を一人も出
さない奇跡的な成功をもたらした遠因になったということが本から読み取れる。

通訳としてだけでなくジャーナリストとしての立場から、自分の周辺で起き
る以下のことをありのままに書いてある。

・自衛隊組織と自衛隊員という個人の関係
・日本とイラクという異文化の摩擦と軋轢
・国際情勢と政治に振り回されている、自衛隊組織の葛藤

この本はイラクからの撤退まで出版することは適わなかったそうである。軍
事は国民の同意がなくては活動が難しいが、その一方で情報を漏らすことは
軍事展開を危うくするという微妙なバランスの上に成り立っている。しかし
後からこうやって公表できる事実が出てくるのは、当時我々が新聞やテレビ
などで知った情報とはかなり細部が異なっていることがわかるのは、後学の
ため参考になる。

最後の章で、著者がジャーナリストとしての活動が通訳中は思うようにでき
なかったその苛立ちが書かれていて、単なる従軍記ではないとわかった。イ
ラクの人の普段の生活など戦時ではないイラクの人たちの日常の一コマがあ
れば、もっとよかったように思う。

本を読んでいると、中東地区を半年旅行した懐かしさを感じた。
暑く乾いた空気でほとんどにおいがしない。市場に行くと、ときおり香辛料
をふんだんにつけて炭で焼いたカバブの匂いや、ラクダや羊の糞の臭いがふ
わーんと漂い、アラブ人の汗臭いにおいが砂埃に混じって漂ってくる。しか
し今では、兵士や民間人の血の臭いと、戦車や車などが破壊された油と鉄の
臭いが加わるのであろうか。

あーそういえば、1992年にモロッコからスペインへ行く国際線の中で、アメ
リカに亡命しているイラク人旅行者に会って話したことがある。
「モロッコの旅はどうでしたか?」
「イラクとは全然言葉が違って、まったく言葉が通じなくて苦労した。同じ
アラブ人なのに、だまされたりぼられたりした。大変な旅行でもう2度と着
たくない。」

ちょっとひげづらではあるが洗練された30代男性で、彼は一人旅だったので
それ以上近づくことは憚れたが、同じアラビア語、アラブ人でも違うものな
んだなと思った。アラブはとても広い。アラブ人は違う文化だが、人間とし
ての素材は私たちと同じである。同じものを食べ、同じものを愛する。

Written by in: 楽天日記 |

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