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[本]黒い部屋の夫


黒い部屋の夫 上下巻

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書評/

「私の元夫は、私が妊娠した直後にうつ病になりました。出産や私の入院を経て六年間、家事育児と仕事、夫との闘病に私なりに力を注いだつもりでしたが、力尽きて離婚。私は新しい生活と、やがて新しいパートナーを得、元夫は自殺しました。」
という帯を見て、この本に惹かれました。

少し重い内容ですが、読み進めるにつれて引き込まれます。

自殺した夫「くま」の年齢が私と同じの40代前半で、仕事もIT関係と似ていることもあり、夫と私がダブりました。私も夫の気持ちや考えることに共感ができます。一方で、そのときに妻あるいは女性はどう思うのかということに興味がそそられながら本を読んでいきます。

もともとこの本は、「記憶の記録」というタイトルのブログに書かれたいたものを書籍化したものです。現在はブログからは文章はすべて消されていますが、著者がブログを書き始めたときはどんな気持ちだっただろうと思います。現在進行形の話ではなく、すでに過去のことを書きとめて置こう、書くことで自分の心に留まっている辛い気持ちが少しでも解消できるのではと思ったかもしれません。あるいは相棒のくまのことを忘れ去られてしまうのではなく世の中に残しておきたいという気持ち、特に2人の娘にお父さんのことを正確に知ってもらいたいと思ったからかもしれません。

著者本人の「エリ」さんは、これでもかというぐらいに心の奥底まで見せてくれます。
豊かな表現の筆力と何度もリフレインされるうつの描写やエリの心の葛藤が強い印象を残します。

夫との生活だけでなく、自分の両親や姉、夫の両親などとのかかわりだけでなく、仕事仲間など。できるだけ正直に正確にに残しておきたいという気持ちがある一方で、本人が特定されて迷惑をされない程度で。

エリの心の奥底も1人称で語ってくれます。献身的な気持ちもありながら、女としての本音や性のことも。あまりにもいろいろなことを、心の奥底にあるものまで語ってくれるので、それはリアルに感じました。私の場合は、妻が何を考えて、何を感じているかを考えてしまいました。

一方で私はくまと似ているところもあり、私はくまに重なります。すると本を一節読むたびに、私の言動や行動が妻はどんなふうに思っているのだろうかと考えてしまいます。エリさんの気持ちもよくわかるし、それはもっともだと思います。
くまの気持ちに共感したと思えば、次にエリさんの心に同感します。心がいったりきたりして、双方の心情を共有しようとして疲れてぐったりしてしまいました。

私も一歩道を踏み外せば(現在も危ういところですが)、くまさんと同じ状況になって仕事を放棄して引きこもり、そして仕事相手や家族に迷惑をかけているかもしれません。くまが落ち込んでいく状況は、まさに私が落ち込んでいる状況と似通っており、面倒なことを避けるためにだんだんと悪条件の方へ転がり落ちていきます。

客観的にふと振り返ってみると、「何で俺はこんなことをしているんだろう」と思い「なかったことにする」=死を選びたくなる。

その一方で、妻は自分の生きていく道を模索して、自立できる道を探し、そして「もう一緒にいれない」ということをきっかけに離婚を選びます。女は強いと思っていましたが、愛する子どもがいるから強くなれるとわかりました。エリを通して、自分の妻がどのように考えているか、何を大切に思っているかがわかったような気がします。

人間は良心を持っているしそれと同時に自己保身のためのよこしまな心も持っている。それが、エリさんの葛藤をとおして見ることができ、そして共感できるところありました。最後の遠慮がちに「気分が悪くなるかもしれませんが」と書いているところからは、この本に対して著者の刻印が記されたような感じで印象的で心強いものでありよかったと思います。逆に言えばこの部分がなければ、さらっと流されてしまったかもしれません。

ただ、本全体が宗教書以上に、自分の心にぐさりぐさりと刻みつけられた気がして辛いものであったことも確かでした。

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